港湾運送事業法
1. 概要
港湾運送事業法で定義付けている港湾運送とは「他人の需要に応じ、港湾において海上輸送に先行し、または後続して貨物の船積み、陸揚げ、荷さばきなどを行う事業」をいう。
港湾運送事業法施行令では、京浜港、名古屋港、大阪 港、神戸港、関門港を含め、全国93の港湾を事業法の適用港として指定している。
この指定された港湾における次の行為が港湾運送であり、この行為を行う事業が港湾運送事業ならびに港湾運送関連事業である。
港湾運送事業は、一般港湾運送事業、港湾荷役事業(船内・沿岸荷役事業)、はしけ運送事業、いかだ運送事業、検数事業、鑑定事業、検量事業に該当する 行為をいい、港湾運送を事業として行う者は、その港、その業種ごとに国土交 通大臣へ申請し許可を受けなければならない。
港湾運送事業法で許可が必要な港湾を「指定港」と呼び、それ以外の港湾での業務は原則(労使間の事前協議による判断が必要)法の適用を受けない。
したがって、港湾運送事業の許可を取得していない者は港湾運送事業を営むことはできず、通関業(通関業法/財務省)や倉庫業(倉庫業法/国交省)、陸運(貨物自動車運送事業法/国交省)だけの業者は港湾運送事業法に定められた港湾運送行為ができない。
また、港湾運送は他人の需要(荷主の委託、船舶運航業者の委託)により行われるため、一般港湾運送事業者ではない港湾荷役事業(船内・沿岸荷 役事業)者、はしけ運送事業者、いかだ運送事業者は、荷主または船舶運航事業者から直接業務を受けることはできない。
2. 港湾運送事業の3つの特性
① 重要性
わが国の貿易量(トンベース)の99.6%、国内輸送(トンキロベース)の32.0%が港湾を経由している。港湾運送が不安定化した場合には、直ちに貿易および経済活動に悪影響を及ぼすことから、諸外国においても港湾運送の安定化に一定の配慮(規制)がなされており、日本においても許可制などによって、その健全性と安定的運営の確保が図られている。
② 波動性
港湾運送事業は景気などによる荷動きの動向に影響を受けやすく、船舶の運航スケジュールや気象、海象にも影響される。さらに、実作業においても天候に左右されるなど決して安定的ではなく、日々の業務量も波動性がある。
顧客からのニーズに対応するためには、常時一定規模の労働者を確保しておく必要があり、業務が少ない日に労働者が遊休化してしまうという非効率が生じやすい。また波動性に対応するため、企業外の労働者(登録労働者)に対する潜在的需要が存在している。
③ 労働供給性・労働集約性
港湾運送事業は、基本的に船会社や荷主からの求めに応じ、港湾荷役の労務を提供するという受注型の労務供給的な側面を有している。また大規模な設備投資などを必ずしも要しないことから、全コストに占める労働コストの割合が非常に高い労働集約型産業の側面も有している。
日々の業務が発注者である船会社や荷主の影響を大きく受けることや労働環境が厳しいこと、中小企業が多いこともあり、労働問題が発生しやすいという面もある。
3. 港湾運送事業の内容
第1種から第7種の事業区分は、港湾運送事業法が公布・発効された1951(昭和26)年および改正された1959(昭和34)年当時の荷役形態から決定された(沖荷役での輸入貨物の流れ)。
① 第1種:一般港湾運送事業
荷主または船舶運航事業者の委託を受け、船舶により運送された貨物の港湾での受取りもしくは荷主への引渡し、また運送予定の貨物の船舶への引渡しもしくは荷主からの受取りに際して、荷役や運送作業を一貫して行う行為。
海運貨物取扱業(海貨、乙仲※)は「限定1種」と呼ばれ、事業範囲は荷主の委託を受けて行う個品運送に限る。行える行為は、はしけ運送+沿岸荷役に限定される。
※旧海運組合法において、2種仲立業(通称、乙仲と呼ばれていた)
② 第2種:港湾荷役事業(船内・沿岸荷役業)
(1)船内荷役行為:港湾にて行う、船舶への貨物の積込みまたは船舶から の貨物の取卸し行為。 (2)沿岸荷役行為:港湾にて行う、船舶やはしけにより運送された貨物の上屋その他の荷さばき場への搬入、船舶やはしけにより運送されるべき貨物の荷さばき場からの搬出、これら貨物の荷さばき場での荷さばき・保管、または船舶(国土交通省令で定める総トン数500トン未満のものに限る)・はしけからの取卸しもしくは船舶からはしけへの積込み行為。(貨物の取卸しまたは積込みにあたって、船舶が岸壁、桟 橋または物揚場に係留され、かつ揚貨装置を使用しないで行う場合に限る)
③ 第3種:はしけ運送事業
港湾にて行う、船舶または はしけによる貨物の運送(一定の航路に定員13 人以上の旅客船を就航させて人の運送をする事業者が行う貨物の運送、その他 国土交通省令で定めるものを除く)、国土交通省令で定める港湾と場所との間(指定区間)における貨物のはしけによる運送、または港湾もしくは指定区間における引船によるはしけ・いかだの曳航。
④ 第4種:いかだ運送事業
港湾または指定区間にて、いかだに組んで行う木材の運送、または港湾にて行う、いかだに組んで運送された木材や船舶・はしけにより運送された木材の水面貯木場への搬入、いかだに組んで搬送される予定の木材または船舶・はしけにより運送される予定の木材の水面貯木場からの搬出、もしくはこれらの木材の水面貯木場における荷さばきもしくは保管。
⑤ 第5種:検数事業
船積み貨物の積込み又は陸揚げを行うに際して、その貨物の特定(品名、荷印、荷姿、荷番)、個数(数量)の計算又は受取りの証明。
⑥ 第6種:鑑定事業
船積み貨物の積付に関する証明、調査及び鑑定。
海上輸送に適した梱包、積載方法であるかの証明。
⑦ 第7種:検量事業
船積み貨物の積込みまたは陸揚げを行うに際してする、その貨物の容積または重量の計算または証明。
4. 港湾運送関連事業
港湾運送関連事業を営もうとする者は、あらかじめ港湾ごとに国土交通大臣に届出なければならない。届出の必要のある業務は
① 船貨の固縛事業(Carpenter)
港湾に於いてする、船舶に積込まれた貨物の位置の固定若しくは積載場所の区画。〈Shoring、Choking、Lashing〉
② 船貨の梱包事業(Cooper)
港湾に於いてする、船積み貨物の荷造り若しくは荷直し。
③ 船艙内掃除事業(Sweeper)
港湾に於いてする、船舶からの貨物の取卸しに先行し若しくは後続する船艙 の清掃。
④ 警備事業(Watchman)
港湾に於いてする、船積み・船卸し貨物の警備。
※ 港湾運送関連事業は港湾運送の補助的行為で、営利の有無を問わない。
5. 港湾運送事業法の変遷
1945年の太平洋戦争終戦後、日本の海運・港運は連合国最高司令官総司令部民間運輸局によって統制された。当局は日本の海運を復活させないとの方針の下、戦前・戦時中における日本の港湾関係諸法令の諸制度を廃止させた。
1946年9月には、1941年9月の国家総動員法に基づき制定され当時の港湾運送事業の準拠規定でもあった「港湾運送業等統制令」の廃止、翌1947年8月には1939年4月に公布された海運組合法の廃止がある。
これらの関係法令の廃止により、海上運送事業に必要不可欠である港湾運送の業務が無法状態となり、港湾荷役において小規模業者の乱立を招き、港湾の秩序はしばらく混乱の時期が続いた。 このような状況を静め、日本の経済再建を担う産業力としての確立と安定化を実現させるため、政府は連合軍最高司令部に対して実情と規制の必要性を説明し、関係者の粘り強い交渉と検討の結果、1951年5月に港湾運送事業法が制定された。
6. 作業料金の種類
(1)在来荷役料金
① 港湾荷役料金(船内荷役料金)
貨物の船舶への積込み、船舶からの取卸し作業に関する料金。
② 港湾荷役料金(沿岸荷役料金)
船舶・はしけにより運送された貨物の上屋・野積場への搬入、またはその逆の搬出に対する積卸し作業、上屋その他荷さばき場における貨物の保管に対する料金。
③ 港湾荷役料金(船内・沿岸一貫荷役料金)
④ 港湾荷役料金(小型船荷役料金)
⑤ はしけ運送料金
⑥ いかだ運送料金
⑦ 輸出貨物船積み料金
輸出貨物を上屋戸前荷受から本船舶側で本船へ荷渡すまでの一貫作業に対する料金。
⑧ 検数料金
⑨ 鑑定料金
⑩ 検量料金
(2)革新荷役料金(自動車船、RORO船、コンテナ船など)
① 自動車専用船荷役料金
自動車専用船への自動車の積込み、または取卸しを一貫して行う作業に対する料金。
② ロールオン・ロールオフ船荷役料金
ロールオン・ロールオフ船(RORO船)への貨物の積込み、または取卸しを一貫して行う作業に対する料金。
③ サイロ港湾荷役料金
コンベアなどの荷役機械を使用して、撒貨物などを船舶からサイロビンに投入するまでを一貫して行う作業に対する料金。
④ コンテナターミナル運営料金
コンテナの船舶への積込みまたは取卸し、船舶により運送されたコンテナのヤードへ搬入、または船舶により運送されるべきコンテナヤードからの搬出およびコンテナヤードでの荷さばきなどを一貫して行う作業に対する料金。
⑤ 機械荷役料金
専用ふ頭などに設置された大型荷役機械を使用して、船舶への積込み、または取卸しを一貫して行う作業に対する料金。
⑥ 機械下荷役料金
上記⑤の機械荷役に付随して行う「かきよせ作業」などに対する料金。
⑦ その他の料金
上記に準じて荷役形態が特殊であり、かつ能率が著しく異なる作業(一般料金にかかる作業に比較して2倍以上または2分の1以下の能率であるもの)に対する料金。
※ 在来荷役と革新荷役で料金が異なる理由は、船内・沿岸・倉庫出し入れなどの業域の区分の違い、荷役効率の違い、設備投資の違い、作業体制の違い、労働の仕方の違いなどによる。
- 出典:柴原優治2024年著書「港湾で活躍する人材の育成」(第8章港湾・港湾業者に必要な知識・資格)