原子力推進システムの時代は来るか Lloyd’sとDNVがガイダンス発行
近年、船舶分野で小型モジュール炉(SMR)の活用が注目されており、重電大手のABB(スイス)とスウェーデンのBlykallaの提携などにより研究が進んでいる。国際海事機関(IMO)も原子力船の安全コード改定を進め、排出ガスゼロやサプライチェーン効率化などの利点が強調されている。一方で、福島第一原発事故、チェルノブイリ原発事故の記憶が強烈な日本、ドイツでは、安全性や廃棄物管理、規制対応などの懸念から反原発感情が根強く、商船の原子炉搭載はいばらの道だ。
Loyd‘s Register(LR、ロイズ船級協会)は「Navigating Nuclear Energy in Maritime」(海事産業における原子力エネルギー(活用)の進め方)を発行し、商船への原子力推進導入の可能性と課題を整理。IMOの温室効果ガス排出ゼロ枠組み(NZF)との整合性や、安全性・環境影響・保険制度などの検討が進められている。EUの欧州海事安全機関(EMSA)も原子力をゼロエミッション達成の重要要素と位置づけ、ABS(米国船級協会)は大型商船への原子炉搭載モデルを提示している。
LRはSMRの登場が海運業界の脱炭素化に貢献し、燃料供給の不確実性を排除する可能性を示唆するが、反原子力感情が根強いドイツではメルケル政権下で原子力エネルギーを段階的に廃止し、低炭素経済への移行を目指しており、日本でも福島原発事故以降、原発への反発が続く。
DNV(ノルウェー船級協会)は最新の報告書で、原子力商船によるネットゼロ達成は依然として困難とし、報告書では、燃料管理や廃棄物処理、船舶の建造・運航、原子力サプライチェーンの監視など、将来の海上燃料サイクルの主要要素を取り上げ、核融合炉などの船主が採用する可能性の高い原子炉技術も提示している。自動化、デジタル化、モジュール設計の進展は安全性や核不拡散の実現に不可欠であり、社会的受容にもつながるとしながらも、原子力商船の商業化は予測可能で調和の取れた規制枠組みが国内外で必要と強調。さらに、燃料供給から廃棄物管理までのライフサイクル全体のコストを事業計画に組み込む必要があり、モジュール化によるコスト削減の可能性を認めつつも、社会的受容と投資家の信頼獲得には課題が残ると指摘し、原子力によるネットゼロの実現は依然として遠い、としている。