2030年の中間気候目標達成の動きが停滞する海運業界
海運業界の2030年の中間気候目標や2050年のネットゼロ目標の達成に向けた動きが遅れており、懸念が高まっている。
最近の報告書、「海運のブレークスルーに向けた進捗 - 2025年版」によると、業界は2030年までに国際海運で使用される燃料の少なくとも5~10%を拡張(増産など)が可能なゼロエミッション燃料にするという目標達成が遅れており、その主な要因として、需要の低迷、資金調達の停滞、そしてよりクリーンな選択肢への投資を困難にする不明確な規制をあげ、さらに、現状の進捗状況から判断すると、抜本的な対策を講じない限り、2030年の目標達成が危ぶまれるため、業界に対し早期の行動を促し、各国政府に対し、規制の確実性を高め、戦略を整合させ、2026年までに拡張可能なゼロエミッション燃料の普及を加速するよう求めている。
この報告書は今年初めに国際海事機関(IMO)がネットゼロ枠組み(NZF)に合意したことを受けて、ロンドン大学ロンドン校(UCL)エネルギー研究所、世界海事フォーラムのゼロエミッション達成連合、そして気候変動ハイレベル・チャンピオンズが中心になり作成、現状を技術は進歩しているものの、需要の低迷と資金調達の停滞により移行が遅れ、将来の供給に悪影響を及ぼしているリスクがあると指摘し、海運業界がNZFの軌道に乗せるために以下の3つの方策を講じる必要があると明示している。
1. スケーラブル・ゼロエミッション燃料(SZEF、航行時に温室効果ガスを排出しない燃料で、増産などが可能なもの)を明確に優先する、堅牢なIMO報酬メカニズムを支持し、定義の整合性、ガイドラインの早期導入、そして投資家と運航者に安心 感を与える設計を確保する。
2. SZEF非加盟船舶が直面するリスクの増大について、個々の船主とシステム全体の両方にとっての認識を高め、将来を見据えた船舶へのタイムリーな改修と投資を促す。
3. IMOネットゼロ枠組みが十分な支援を提供しない可能性のある分野では、各国の政策主体と地域レベルの政策のギャップを埋められるよう支援する。
IMOのネットゼロ枠組みの合意は多国間外交の大きな成果だったが、業界が必要とするレベルの勢いはまだ見られない。IMOが拡張可能なゼロエミッション燃料の先駆者に対して報奨金を配分するガイドラインを策定すれば、供給、需要、資金の調整と2030年目標の達成に大きく貢献すると見られる。
しかし、米国のトランプ政権が9月12日にIMOが10月に採択を予定しているNZFを正式に拒否し、提案に賛成票を投じたIMO加盟国に対して港湾税、関税、さらにはビザ発給拒否を課すなどの報復措置も辞さない声明を発表したのに続き、サウジアラビアもNZFの合法性と貿易コストの上昇に異議を唱えている。米国がNZF導入を阻止することに成功した場合、現在施行されている最大の地域的排出削減規制は、EUの排出量取引制度とFuelEU Maritimeとなる。