米国鉄道大手2社の合併で米大陸を横断する単一鉄道が誕生するか
北米鉄道最大手で西部鉄道のUnion Pacific鉄道(UP)は7月、東部鉄道のNorfolk Southern鉄道(NS)を850億ドルで買収することで合意したと発表した。これにより合併が実現した場合、UPの西部・ガルフ鉄道網とNSのニューヨークを含む東部ルートが統合され、43州にまたがる初の米国東西両岸・ガルフを結ぶ路線延長5万マイルの巨大鉄道会社が誕生し、北米の鉄道市場が一変する。
UPは現在、主にミシシッピ川以西(シカゴまで)とガルフ諸港に鉄道網を持つ西部鉄道。一方、NSは同川以東を運行する東部鉄道で、合併が実現すれば、米大陸を横断する規模の鉄道最大手が誕生し、路線の乗り換えを経ずに米国内で貨物を横断輸送することが可能となるため、輸送の迅速化、効率化が期待でき、物流関係者や大手荷主などからは、信頼性の向上が期待できるとして歓迎する。一方、鉄道労組は合併後の鉄道の安全性と雇用確保に懸念を表明している。UP/NS合併が実現すると、NSと競合する東部鉄道のCSXやWallen Buffet氏率いる持株会社のBerkshire Hathaway 傘下の西部鉄道、BNSF鉄道といった競合相手には、競争面での圧力がかかる。株式の時価総額ではUPが約1,350億ドル(19兆7,800億円)で、NSの約640億ドルを大きく上回る。
合併の許認可は主として競争法上の市場独占の観点から、陸上運輸委員会(STB:Surface Transportation Board)が判断するが、過去の鉄道合併申請の例では規制面での制約が多く、実現が難しいものの、現STB委員長は運輸企業の統合に積極的な共和党のPatrick Fuchs氏(第1次トランプ政権時の2019年に任命)で、元来、米鉄道業界は共和党の支持基盤で、Class 1鉄道(年間収益9億ドル以上の鉄道)の米加鉄道の合併(CPKCS)も実現していることもあり、合併の実現可能性は高い、と見る向きも多い。
STBは州際通商委員会(ICC:Interstate Commerce Commission)の後継の、連邦政府から独立した司法、立法権限をもつ行政委員会で、法的拘束力を持つ許認可を判断する。STBは主として鉄道の利害関係者が運送事業者による不当な運賃設定やサービス提供に関する苦情を調査し、州際通商法(Interstate Commerce Act)の遵守を確保、運輸企業合併の合理性を判断する。委員長や長官、職員の解任については大統領の権限が制限されている。